「戦友」のテーマ・ストーリー

こんにちは

今日は、事例Ⅰ「戦友」に込められた、テーマ・ストーリーについてです。 与件と設問(第5問)をもとにみていきます。 物語を読み進める感覚でどうぞ。

第5問 「第三の創業期」ともいうべき段階を目前にして、A社の存続にとって懸念すべき組織的課題を、中小企業診断士として、どのように分析するか。150 字以内で答えよ。

分析 ① 外部環境と戦略の乖離 ー 戦友たちの経験 ー (起因となった出来事) 第一の創業期の終わり、長期景気低迷という逆風の環境下、X社は(結果的に無謀とも言える)事業拡大(戦略)により存続できなくなった (懸念されること) 今も続く、長期景気低迷の局面下で事業拡大を図るA社にとって、戦友たちの経験や危機感が風化してしまい、同じ轍を踏むことが懸念される (よって、組織的課題は) 事業継続の困難に遭遇した戦友たちの経験とそれに基づく危機感を共有、伝承していくこと。

分析 ② 戦友たちの引退 ー チャレンジ精神 ー (起因となった出来事) 第二の創業期、A社社長が過半数を出資し、仲間7名もわずかな手持ち資金を出資して事業再建の道をスタートさせた その後、A社社長と7名の仲間たちは、生産、販売のため、そして存続と成長をかけてともに一生懸命「戦った」 その戦い方は、出題者をして「戦友」と言わせるような「チャレンジ精神に満ちあふれた姿」であったに違いない そして今では8億円を売り上げる企業に成長させた。 (懸念されること) 戦友たちのチャレンジ精神に支えられて成長してきたA社は、それを維持・向上しなければ、急拡大させている現状の売り上げ維持さえも懸念される。 ましてや、新たな製品を開発し、首都圏から全国市場へという大きなビジョンに立ち向かうならなおさらです。 (よって、組織的課題は) 戦友たちの引退により、チャレンジ精神を衰退・消滅させないよう醸成していくこと。

分析 ③ A社社長と専務の引退(=第三の創業期) ー 権限委譲 ー ところで「第三の創業期」とは? それは次期経営者たちの時代 では「その段階を目前にして」とは? A社社長と専務がまだいるうちに その段階での組織的課題は? 「企業経営者としての経験」を持つ人材を確保、育成すること 下記の「与件」がそのことを示唆しています。 「企業経営者としての経験がないといった不安(懸念)を抱えながらも・・・」 ※(懸念)は補足 つまり、経営をするには「企業経営者としての経験が必要です」という一般的な考え方を示すとともに、それなくしては存続に不安(懸念)が生じます、ということを出題者が示唆しているものと考えます (よって、組織的課題は) 引退を前に、後継経営者に(権限委譲により)経験を積ませ、A社社長と同じように経営を行える人材を確保、育成すること。

(まとめ) A社の存続にとって懸念すべき組織的課題

① 事業継続困難に陥った経験と危機感の共有と伝承 ② チャレンジ精神の維持・向上 ③ 権限委譲の推進による後継経営者づくりと事業部制組織への変革 ④ それらを実現する人材の確保と育成

上記構成要素(一次知識やキーワード)を活用し「組織的課題は、」を主語に、与件の記述も使いながら、頭の中でも構いませんので150字の答案を作成されてみてはいかがでしょうか。

事例Ⅰ第5問解答欄枠 (解答例) 組織的課題は、創業の戦友が退職する中、①X社時代に事業継続困難に陥った経験と危機感の共有・伝承、②新商品の開発と首都圏出店、全国市場への進出を実現するチャレンジ精神の醸成、③A社社長の後継経営者づくりと今後の事業部制組織への変革を見据えた権限委譲の推進、④それらを実現するための人材の確保と育成である。 (150字)

ところで、上記まとめの中に「事業部制組織への変革」を盛り込みました。 これが、本事例を締めくくるテーマです。 根拠は以下の通りです。 A社は現状、機能別組織体制で、トップに意思決定や権限などが集中し、その分A社社長の後継経営者が育ちにくい組織構造上の特徴、風土、文化をもっています。(一次知識より) けれども、首都圏から全国へ進出するとなれば「地域別にくくられた」事業部制組織への変革(事業や市場の規模・特性に合わせた組織形態への変革)も視野に入れなければならない。 第一の創業期には、そうした変革(=事業展開に応じた組織の再構築)は記されることなく拡大路線に突き進み、立ち行かなくなっています   (=第三の創業期へ向けての懸念事項) このように、権限委譲の推進は、後継経営者の育成とともに、事業部制組織への変革のために必要かつ有効な施策でもあるのです。 ー編集後記ー 今回のテーマ・ストーリーの解説にあたっては、十分時間を頂きましたが、この内容を80分で考え、試験会場に残すことが合格の必要条件ではございません。 そのことは、再現答案を評価していて理解できます。 ここで重視したことは、出題者が求めていた(と考えられる)テーマ・ストーリーを「 中小企業診断士として 」少しでも汲みとろうとする試みです。 普段の講座の中では、こうしたテーマ・ストーリーに、折々触れつつも「実際の80分で書ける答案の作成」を重視しております。

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