会社が組織として成り立つために

最近のコンサルティング事例から

経営者の立ち位置を明確にし、従業員の意識改革に着手して頂くため、組織の成り立ちから丁寧に説明しました。以下はその概要です。中小企業診断士試験の組織論を学ぶ方の参考になれば幸いです。

1.会社について

 「会社はだれのものか」という問いがあります。これに対してはいろいろと意見がありますが、所有と経営の分離という言葉がありますように、やはり「株主のもの」になると思います。

 そして、株主が「所有」しているその会社を金銭に替えて受け取る場合にいくらになるかを計算するなら、すべての資産価値から、借入金の返済や取引先や従業員に支払うべき金銭等の支払いを済ませて残った財産の価値、いわゆる株主価値がその金額となります。  ここで、株主がその金額を受け取るということは会社を清算する場合を前提とすることになります。しかし、通常、会社は継続企業の前提(企業は継続するもの-ゴーイングコンサーン)に基づいており、各関係者からもそのように期待され、信頼され、この「継続企業の前提」にもとづいて存在しております。  また、松下幸之助の「企業は社会の公器である」という言葉からすれば、会社は社会の公(おおやけ)の一員であり、その社会に認められて存在させて頂いているということになります。  そこで、ここでは上記の通り、継続企業の前提で考えていきます。  そして、会社を継続的に運営するとなると、そのために不可欠なたくさんの関係者の存在を認識することになります。これらの関係者をステークホルダーと呼びます。  以下に書き出してみます。  株主  経営者  社員  お客様  取引先  借入先(銀行)  地域社会  etc ...  この関係者と会社の関わりはそれぞれの深さがあり、またその関わり方もさまざまです。  こうした関係者が集まって大きな意味で組織を作り、会社を継続させております。  そして、各関係者は会社に対して、自ら何かを提供し、そして何かの見返りを期待しております。つまりは、それぞれの目的をもってかかわっているということです。

2.それぞれの関係者の目的について

それぞれの関係者の目的を大まかに挙げてみます。  株主・・・配当を得る、もしくは内部留保(純資産)の維持、増加  経営者・・・役員報酬、株主から委託された責任のまっとう、自己実現  社員・・・給与(ラクニ、タクサン)、成長、評価(人から認められる)  お客様・・・企業の提供する商品やサービスを受け取る。  取引先・・・会社に提供した商品やサービスに値する金銭(対価)  借入先(銀行)・・・貸付にかかる利息の受取りと元本の確保  地域社会・・・大きな意味で共存共栄

3.会社の目的について

一方、「会社」の目的とは一体何でしょうか。  何の前提もなければ、定款に記載されている事業の目的をイメージするかもしれません。しかし、ここでは、個々の事業というよりは会社全体の向かうべき方向という意味で「目的」という言葉を用います。  さて、会社の目的は、究極的には「利益を上げること」でしょう。確かに株主にとっては利益があがれば株式の価値の向上または配当金が得られます。またその他の関係者にとっても利益はその取り分の源泉です。  しかし、ゴーイングコンサーンという視点からすれば、その利益の上げ方にも良し悪しが出てきます。たとえば公害を出して社会から退出を求められる、社員を酷使(いわゆるブラック企業)したり取引先とトラブルを起こすなどして、インターネットで会社の悪評を広げられる、お客様に対するサービスを削って短期的には利益が出ても、長期的には顧客離れを招く・・・etc  つまり、会社の目的には単に「利益を上げること」に加えて、どのようにその利益をあげるかまで加えることが必要になるのです。  では、何を加えるべきなのか。これには、いろいろな考え方や意見があり、それと同時にそれぞれの業界や会社によっても、目指す成果やそれを成し遂げる方法が異なるので、これが正解というものはありません。  結論としては、会社の目的は、それぞれの会社の現在の状況や未来のあるべき姿を考えて、さらに関係者の関わり方や目的を考慮して、経営者がリーダーシップをもって、オリジナルにつくりあげるものということになります。

4.会社のオリジナルな目的をつくるために

ではどのようにしたら最適な会社の目的をつくれるかを考えてみます。  はじめに、「会社のオリジナルな目的」をつくるために有用な考え方をご説明します。  バーナードというアメリカの有名な会社経営者が提唱した、「組織とは何か」という「理屈」です。  組織は「意識的に調整された2人またはそれ以上の人々の活動や諸力のシステム」であり、 その組織が成立するには次の3つの要素が必要だというものです。  ①共通目的  ②貢献意欲  ③コミュニケーション 組織はこの3つの要素のうち、何か欠けている、またはどれかが弱いと成長もしくはスムーズな運営ができません。  ことばの説明のため、少し回り道になりますが以下に例を挙げます。  組織は人の集まりですが、例えば、渋谷のまちを歩いていて交差点にたくさんの人が集まっていたとします。当然それだけでは「組織」とは言いません。上記の考え方にあてはめるなら、交差点を歩く人たちには「共通の目的」があるわけではなく、当然その目的のために「貢献しようという意欲」もなく、したがって「コミュニケーション」(会話や伝達)をする必要もありません。    次に、この渋谷の交差点で、サッカーワールドカップのとき、日本が勝利したら見知らぬ若者同士がハイタッチをするという歓喜の表現行動をとりましたが、これが組織といえるかを考えます。このときは、交差点に集まり、共に勝利をよろこぶという「共通した目的」があり、ハイタッチをするには相手が必要だから自分自身もそこに集まることでイベントを成功させようとする「貢献意欲」(カワイイ子と手を触れたいだけという人もいる?)があり、さらに、ハイタッチという「コミュニケーション」があります。要素が3つ揃っています。しかしこれは、自然にそうなったというだけで、「意識的に調整された」わけではなく、またその場限りであり、継続もしないためシステムとは呼べません。    しかし、このハイタッチの結果、そこで出会ったファンたちが「ファンクラブ」をつくって運営を始めた場合はどうでしょう。選手を励まそうという「共通の目的」のために、自分の貴重な時間を割いてでも応援のためのフラッグづくりを手伝おうという「貢献の意欲」があり、うまく運営するために、会長を選出し、役割分担を決めて、各人それを遂行したり、さらに会員同士が連絡をとって打合せを行うという「コミュニケーション」が意識的にそして継続的に行われます。これなら組織として成立します。  組織が成立し、機能していくには上記の3つの要素が大切です。  そして、会社のオリジナルな目的はこのうち一番初めに来る「共通目的」のひとつとして定めていきます。また、共通目的は、貢献意欲やコミュニケーションと密接にかかわってきますのであわせて考えます。  では、3つの要素を会社経営に当てはめてみます。 ①共通目的  「経営理念」や「経営方針」(もしくは経営ビジョン)といったものです。    まず、「経営理念」は、会社自体の大きな目標です。 「〇〇という事業を通じて△△して社会に奉仕する」 といったものであり、一度決めたら簡単には変わらない原則的なものです。  会社のオリジナルな目的といえば、主にこの部分にあたります。 (注:今回は従業員数が少なく事業も単一な企業で、今から経営理念を設定しようとしている状況のため、特に会社全体の共通目的と部署別の共通目的といった分け方はしませんでした。大企業のように既に経営理念があり、複数の部署に機能的に分化している組織なら、会社の大きな目的(経営理念)と別に部署ごとの共通目的、もしくはプロジェクトの目的というように細分化して策定していくことになります)  次に「経営方針」は、経営理念を実現するために、そのときどきの経営者が中心になって策定します。 したがって、この経営方針は定期的、もしくは状況に応じて見直していくものです。  いづれにしても、これらの共通目的がなければ、個々の構成員は向かうべき方向がバラバラ(つまりはただの人の集まり)になってしまい、組織として高い成果の実現は期待できません。 ②貢献意欲  こちらは、①の共通目的達成のために、個々の従業員が貢献しようという意欲のことをいいます。職場において個々の従業が、会社の共通目的達成のため、すすんで、あるいは少なくても納得して貢献するという意欲を持たせる必要があります。 ③コミュニケーション  上司から部下への指示・命令の伝達や社員同士の意思疎通や助け合いなどであり、組織における、血液または潤滑油の役割を果たすものです。 これがなければ、生きたお客様を相手にする企業経営ではスムーズな目的達成が実現しません。

5.上記考えに基づいて実行すべきこと

①共通目的として 経営理念   経営理念を考え、そして策定します。 経営方針(ビジョン)  3年間かけて〇〇のような会社にする 今年の年間目標として〇〇を達成する、   といった大きな方針です。 ・〇〇という投資や営業で売上をあげる。 ・〇〇というような経費配分で利益を確保する。 ・社員の教育は、〇〇のようにする。 ・お客様には〇〇のようなサービスで今まで以上の満足を与える。 ・結果、年間利益を〇〇万円にする。 ②貢献意欲  初めに、共通目的を従業員に示し、従業員がそれを知って、理解し、共通目的の達成に貢献しようという意識で働いていただく頂くことが必要です。給料として支払われるお金は自動的に生まれてくるものではなく、共通目的の達成を目指す経営活動の結果として生まれるのだということを明確に説明し、理解させることが必要です。  そして、共通目的を達成し、自らが会社から受け取る給料を生み出すためるためには、従業員も、今までやらなかったことをやらなければならないし、それをやるためにはつらいけれど新しいことも覚えなければなりません。経営環境は大きく変わっていきます。会社もそれにあわせて変わらなければなりません。当然、社員もそれに対応していく必要があります。環境変化へ対応して、はじめて会社は継続できるのです。 ③コミュニケーション  従業員同士でも協力し合う関係でなければ、お客様に対して十分な満足を与えることは出来ません。たとえば、「これは私の仕事ではない」と仕事を押し付け合っていると、どちらも責任を持たない仕事(すきまにこぼれる仕事)があちらこちらに生まれ、結果として大きな問題に発展したり、お客様の信頼を失ったりします。自らが楽をしたいのは皆同じかもしれませんが、共通目的を達成するという強い意思を皆が持てば、その目的の達成のために一致団結することも出来るでしょうし、一方、その共通目的に反するような押し付け合いや無責任は「よくないこと」という行動基準が従業員の中で正しい方向性として認識されるようになるはずです。 (その意味でも、何が尊く、何が罪悪なのかという判断基準を示す「共通目的の存在」が大切です)  また、上司と部下、経営者と従業員という上下関係の中で必要な命令を伝え、報告を行うのもコミュニケーションであり、業務の遂行に当たり何か支障などがあれば上司、経営者に相談できる「風通しの良さ」もコミュニケーションのひとつです。  なお、こうした共通目的の設定や貢献意欲の引出し、コミュニケーションの醸成では、その作りあげの過程で、なるべく上手に従業員を巻き込んで責任感や参加意識を持たせることがより効果を高めます。

6.まとめ

組織の変革、向上のためには、時間と労力が必要です。  繰り返し伝え続けることも大切です。  簡単に、そして短時間で解決するとは限りませんが、進むべき方向をはっきりさせることは大切です。

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