【財務会計】-圧縮記帳-(再度取りまとめ)
圧縮記帳とは、国から補助金(助成金)等をもらったとき、その「もらった」という取引について「なかったかのような処理」を行うことです(特例としてきちんと認められている処理です)。
たとえば、1,000万円の設備を購入するため、1,000万円の助成金を国からもらったとします。それで設備が購入できるのは良いのですが、一方、助成金は会計上、収入と認識されます。収入に対しては税金(法人税)を支払わなければなりません(課税所得とみなされます)。仮に税率が40%とするなら400万円です。すると助成金を受け取った企業としては実質600万円しか設備購入資金に助成金を充当することができません。それでは助成金の意味が薄れてしまいます。ですので「なかったかのような処理」である圧縮記帳を認めているのです。
貸借対照表でいうところの「資産」(設備)を助成金額の分だけ減らす(圧縮する)処理です。 バランスシートですから固定資産(借方)を圧縮したら、何か(貸方)も減らさないと釣り合いがとれません。そこで「収入」を減らす処理をします。これを「圧縮損」の計上といいます。こうすれば収入も「なかったことになる」わけですから税金もかからなくなります。
これでちゃんと1,000万円の設備を助成金で賄えたし、その年は税金も支払わないで済んだ。
確かにそのとおりです。ただし、税金を支払わないで済んだ(非課税)と考えて良いのか?というとそう単純ではありません。結論だけ先に覚えておきましょう。「圧縮記帳は非課税措置ではなく、税の繰り延べである」
なんで?ということですが、それは「減価償却費」が関係してきます。 先ほど、「固定資産を圧縮する」と述べましたが、そのことはつまり「簿価を圧縮」することです。「簿価が減る」分、減価償却費の計上額も減ります。もともと、減価償却費は費用であり計上すれば収益が減り、その分税金を支払わなくて済むというメリットがあります。圧縮記帳をするとそのメリット(節税という)を享受する機会利益を喪失します。この「機会利益の喪失額」と「圧縮記帳で得た税金を支払わないで済む額」が等しい。このため「将来得られる節税のメリットを放棄する代わりに、設備を取得した当年は税金を支払わないで済むというメリットを得る」ということにすぎず、「税の繰り延べ」と呼ばれるゆえんです。 国や地方公共団体の補助金(助成金)に関わる機会が多く(それが期待されている)中小企業診断士なら、この「圧縮記帳」という言葉の意味は概要をつかんでおきたいところです。 なお、上記の「圧縮記帳」は必ずしなければならないというものではなく、そういう記帳方法も出来ますということです。
それなら圧縮記帳をするのとしないのとどちらが有利か?と考えてみます。上記の例で税金が400万円であると仮定します。この400万円という節税額を今年享受する場合の現在価値は400万円です。これを圧縮記帳しないで設備の減価償却費として仮に5年間定額法で償却すると1年に80万円(400万円÷5年)ずつ節税メリットを得ることができます。この80万円は将来価値が含まれますので現在価値に割引くなら、400万円より少なくなります。きょう400万円もらうのと5年に分けて80万円ずつもらうのとどちらがより価値があると思いますか?という問いと同じです。よって一般的には「圧縮記帳をした方が良い」ということになります。
圧縮記帳はこうした助成金をもらったときに限らず、火災で建物が焼失してしまったときに受け取る保険金などでも同じように行われます。
仕訳(単純な想定です) 助成金を現金で受け取った。 現金 1,000万円 助成金収入1,000円 設備を現金で購入した。 設備 1,000万円 現金1,000万円 設備資産を圧縮記帳し圧縮損を計上した。 設備圧縮損 1,000万円 設備1,000万円
上記仕訳を貸借(左右)まったく同じ科目を整理していくと 設備圧縮損 1,000万円 助成金収入1,000円 が取り出せます。
この圧縮記帳については、このブログで以前にも取り上げました。 参考にして頂けると幸いです。
【財務会計】予想論点 「圧縮記帳」について 【財務会計】予想論点 「 圧縮記帳 」のモデルケース 注)圧縮記帳には、①直接減額方式と②剰余金の処分方式があります。 上記処理は概念をわかりやすく説明するため①直接減額方式をもとに説明しています。それだけは押さえておけると良いと思います。ただし、一般の中小企業の会計処理では②剰余金の処分方式をとることが多くあります。②剰余金の処分方式では、圧縮処理を損益計算書の損益に反映させるのではなく、決算手続として(借方)繰越利益剰余金 (貸方)圧縮積立金という処理を行い、その事業年度の法人税申告書において減算を行い課税所得を圧縮するという手続きをとります。よろしければこちらをクリックして日本ブログ村の方もご覧ください